2008年12月24日、この事務所に設けられた何本もの臨時電話は深夜まで鳴り止まず、その様子を報道ステーションのカメラが生中継した。直後、日比谷公園での取組が始まった。派遣切りの嵐が吹き荒れ、仕事と住まいを失った労働者が全国にあふれていた。私たちは、人間は物ではないと訴えた。

時は移り10年がたった。年越し派遣村の記者会見のとき公園内をちょこまかと動き回っていた息子は大学受験をむかえている。派遣村後に変わった政権は元に戻り、あるものをないと言っても首相は三選、非正規雇用の増加も少子化も止まらず、人口は減少し、労働力不足に立ち至っている。政府は、それを外国人で賄うとして、外国人労働者を劣悪な労働条件で働かせてきたことの反省もないまま、慌てて入国管理法改正案を成立させた。

大企業の都合を優先し、余れば捨てる。安く買いたたき、ぼろぼろになっても構わない。人間を物扱いする社会から人間が減っていくのは当然だ。そして足りなくなれば外から入れる。このまま、AIが普及し大企業がAIを独占したときの社会の様相は想像に難くない。

茨木のり子さんの詩「六月」。心和む最初の2節。人と人とが力を合わせ人間らしく働き街は若者のやさしいさざめきで満ち満ちる。最後の節は「どこかに美しい人と人との力はないか 同じ時代をともに生きる したたかさとおかしさとそうして怒りが 鋭い力となって たちあらわれる」。今年も、どうぞよろしくお願いします。

弁護士 猪 股  正

 

(*写真 AFP/TORU YAMANAKA http://www.afpbb.com/articles/-/2553605?pid= )

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